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診療科

乳がんの治療について



乳がんと診断された場合その拡がりを正確に診断して治療方針を決定し、乳がん診療ガイドラインに沿って手術もしくは放射線による局所治療と、 ホルモン療法、分子標的療法、抗癌剤治療といった全身治療を組み合わせて治療していきます。
手術は根治性を損なわないことを原則とした上で可及的に 乳房を温存する方針で治療にあたっています。
乳房形成や乳房再建に関しては当院形成外科に受診していただき、できるだけ患者さんのご希望に沿って自家組織 もしくはインプラントによる再建を選択していただくようにしています。
※患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年web版より引用

現在の標準的な手術

乳がんは,初期の段階では乳房内にとどまり,次第に乳房周囲のリンパ節 図1 に転移を起こし,さらにリンパの流れや血液の流れに乗って全身に広がっていくとの考え方から,かつては乳房やリンパ節にとどまっているがんを取り切る目的で,広範囲の切除が行われていました。しかし,近年,乳がんは比較的初期の段階から,がん細胞の一部が全身に広がるという考え方が主流になり,乳がんが治るかどうかは,どれだけ広くがんを切除するかということよりも,手術をした時点で,目にみえないがん細胞が全身にどの程度残っているかと,薬物療法の効果の有無によって決まる,ということがわかってきました。そのため,現在は必要以上に大きな手術を行うことはなくなりました。それぞれの患者さんに応じた手術を行い,病理結果から微細ながん細胞が全身へ広がっている可能性を予測しながら,全身(薬物)療法(化学療法,ホルモン療法,分子標的治療),局所療法(放射線療法,追加手術)が行われています。
現在の乳がん手術には,①局所のがんを取り除く治療,②病理結果からがんの性質を知る検査,という2つの目的があり,乳房に対する標準的な手術の方法は,「乳房部分切除術」あるいは「乳房全切除術」になります。「乳房部分切除術」は,乳房を部分的に切除し,がんを取り除く方法で,「乳房全切除術」は,大胸筋と小胸筋を残してすべての乳房を切除する方法です。
乳房温存療法(乳房部分切除術+放射線療法)は,生存率について乳房全切除術と同等の治療成績が得られることが示され,乳房部分切除術が行われる割合が増加しました。
担当医と手術の方法を決める際には,ご自身の病状(ステージ,がんの大きさや広がりなど)を把握すること,治療法のメリット,デメリットを理解すること,そしてご自身の希望を医師に伝えることが大切です。

乳房の解剖 大胸筋,小胸筋と領域リンパ節

乳房の皮膚を残して乳腺組織のみを切除する方法

乳房全切除では,乳房の皮膚を温存した方法(皮膚温存乳房全切除術)があり,この方法と同時に乳房再建を行うことにより,乳房のふくらみを保つことができます。この方法は,特にがんの広がりが大きい非浸潤性乳管がんや,複数のがんのしこりが同じ側の乳房内の離れた部位に認められるなどの理由で乳房部分切除術が難しい乳がんに対して,行われることが多い方法です。
乳房の皮膚に加えて,乳頭,乳輪を残す方法(乳頭温存乳房全切除術)もあります。この方法は,標準的な方法(乳房部分切除術や乳房全切除術)と比べて生存率や再発率に差がないことを示す大規模な臨床試験の結果はありませんが,乳房再建術と同時に行うと乳房の形がきれいに保たれやすいため,乳房再建術の普及とともにこの手術も増えてきました。ただし,残した乳頭・乳輪の血流が悪いと壊死を起こしてしまうことがあるため,しこりと乳頭や皮膚との間の距離が離れている早期乳がんのみが対象となります。この治療を希望される場合は,十分習熟した医師のもとで,その利点,欠点を理解したうえで,治療を受けることをお勧めします。

内視鏡手術(鏡視下手術)

内視鏡手術は,皮膚を数カ所小さく(数センチ程度)切開し,先端にレンズやはさみのついた管をそこから入れて手術するもので,皮膚を大きく切開して行う手術に比べて,患者さんのからだへの負担が少ない手術として主に腹部や胸部の手術に用いられています。乳がんの手術においても取り入れている施設があり,保険診療として行うことができます。しかし,乳房はからだの表面にある臓器で,乳房部分切除術の場合には手術によるからだへの負担もそれほど大きくないこと,内視鏡手術が通常の手術に比べ時間が長くかかることなどから,普及には至っていません。
また,内視鏡手術で確実にリンパ節郭清ができるか,長期的にみて再発の危険性がないかなどのデータはまだ不足しており,統一した手術手技もまだ確立していません。内視鏡手術(鏡視下手術)を受ける場合は,十分習熟した医師のもとで,その利点,欠点を理解したうえで,治療を受けることをお勧めします。

からだへの負担がより少ない治療

患部にメスを入れずに,乳がんの治療をしようとする試みも進められつつあります。その一つがラジオ波焼灼療法であり,これはがんに針を刺し,その先端からラジオと同様の周波数帯の電磁波を出して,がんを熱で死滅させる方法です。もう一つの方法としてFUS(集束超音波療法)があり,MRI検査で認識されたがんをねらって,虫メガネの原理でがんに超音波のエネルギーを集中させ,がんを焼き切ってしまう方法です。
こうした治療は「低侵襲治療」と呼ばれ,一部の施設で導入され,臨床試験として患者さんの同意を得て行われ,近年その治療成績が示されてきました。しかし,少人数の患者さんを対象とした短期間の経過観察による成績しかないこと,その適応,治療方法,治療効果判定方法に統一されたものがないことが問題点として挙げられています。現時点では,実施する場合には臨床試験として行われるべき治療で,標準治療とはいえません。当然,保険診療の対象ともなりませんので,このような治療を希望する場合には,標準治療を受けないことの不利益なども十分に考慮すべきです。

手術をしなくてもよい乳がんはありますか

がんが乳管の中にとどまっている早期の状態を「非浸潤性乳管がん(ductal carcinoma in situ; DCIS)」といいます。米国の過去のデータから,非常におとなしいタイプのDCIS(低グレードDCIS)では,乳がんに対する手術を受けた人と受けなかった人の生存率に差がないという結果が発表されました。その結果から,手術をしなくてもいい乳がんがあるのではないかという論議が生まれました。しかし,手術不要と解析された病変が本当にDCISだったのか(がんではない病変だったのではないか)不明である点,手術をしなかった場合も数年後により進行した浸潤がんとして再発した報告が複数ある点などから,現時点では,たとえ低グレードDCISであっても手術をしなくていいとはいえません。手術をしなくていいかどうかを調べるために,診断のための針の太さや,経過観察としての検査内容を細かく規定した研究が進められています。これらの研究結果から,将来的には,手術をしなくてもいい乳がんがあるかどうかが判明するでしょう。

センチネルリンパ節生検とは

図1 センチネルリンパ節
(乳房から最初にリンパ流を受けるリンパ節)

センチネルリンパ節とは,乳房内からのリンパ流が最初にたどりつくリンパ節と定義され,乳がん細胞が最初に転移しやすいリンパ節と考えられます( 図1) 。このセンチネルリンパ節をみつけて摘出し,その中にがん細胞があるかどうか(転移の有無)を顕微鏡で調べる一連の検査を「センチネルリンパ節生検」と呼びます。
センチネルリンパ節生検が開発される前は,ほぼすべての患者さんに腋窩リンパ節郭清を行っていました。腋窩リンパ節郭清には転移の有無や転移したリンパ節の個数を調べ(診断),それを取り除く(治療)という2つの目的がありますが,最終的にリンパ節に転移がなかった場合には,治療としてのリンパ節郭清は必要なかったことになります。
腋窩リンパ節郭清によって,手術後のわきへのリンパ液の貯留(ちょりゅう),わきの感覚の異常,腕のむくみといった合併症や後遺症が引き起こされるなど,リンパ節郭清は,患者にとって術後の悩み事につながる可能性があります。そこで,リンパ節郭清を行わず,リンパ節転移の有無を調べる方法としてセンチネルリンパ節生検が開発され,世界中で実施されています。
センチネルリンパ節にがん細胞がなければ,それ以外のリンパ節に転移がある可能性は非常に低いと考えられますので,腋窩リンパ節郭清を省略できます。センチネルリンパ節に転移がある場合は,原則として腋窩リンパ節郭清を行いますが,センチネルリンパ節の転移が微小(2mm以下)であった場合は,その他のリンパ節に転移が存在する可能性は低いため,腋窩リンパ節郭清を省略することも可能です。
さらに,センチネルリンパ節に2mmを超える転移があっても,一定の条件(条件:①センチネルリンパ節への転移が2個以下,②乳房のしこりの大きさが5cm未満,③術後に腋窩を含む放射線照射を施行,④術後薬物療法を施行,など)を満たす場合には,腋窩リンパ節郭清を省略しても生存率は低下せず,遠隔再発率も上昇しないという報告から,腋窩リンパ節郭清を省略することも可能です。腋窩リンパ節郭清を省略するかどうかは,これらのデータをもとに担当医と手術前によく相談して決めてください。

センチネルリンパ節生検の方法

通常,センチネルリンパ節生検は乳房の手術の際に同時に行います。腫瘍の周りや乳輪に微量の放射性同位元素(わずかな放射線を発する物質,アイソトープ)あるいは色素を注射すると,その放射性同位元素(または色素)はリンパ管を通じてセンチネルリンパ節に集まります。放射線が検出されたり,色に染まったりしたリンパ節(センチネルリンパ節)を摘出して,転移の有無を顕微鏡で調べます。最近では,蛍光色素と赤外線カメラを用いた蛍光法も普及してきました。
なお,センチネルリンパ節生検は,確立された標準的な方法ですが,具体的な手技については,各施設でかなりばらつきがあります。例えば,センチネルリンパ節をみつけるのに使う薬剤や,それらを乳房のどこに注射するかも施設によってさまざまです。また,熟練した乳腺外科医を中心としたチームが行っても,センチネルリンパ節がみつからない場合もあります。

センチネルリンパ節生検の信頼性

センチネルリンパ節生検は,大規模な臨床試験の結果,十分信頼できる方法であることが確認されています。つまり,センチネルリンパ節への転移の有無で腋窩リンパ節郭清をするかどうかを決めた患者さんと,センチネルリンパ節への転移の有無にかかわらず腋窩リンパ節郭清を受けた患者さんでは,生存率が変わらないということが報告されています。

センチネルリンパ節生検の合併症

センチネルリンパ節生検に用いる色素で,まれにアレルギー症状が出ることがあります。また,皮膚に色素の跡が残りますが数週間で消えます。一方,放射性同位元素を使用する場合,その量は非常に微量なため,人体に悪影響はほとんどありません。
センチネルリンパ節生検でもリンパ浮腫(術後の腕のむくみ),腕やわきのしびれや痛みなどが起きる可能性はありますが,腋窩リンパ節郭清によるものと比べて明らかに少ないことも報告されています。

術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検

術前化学療法を行う患者さんに対するセンチネルリンパ節生検は,術前化学療法前の画像診断などにより腋窩リンパ節転移がないと判断された患者さんでは,術前化学療法の前あるいは後のいずれでも実施可能です。一方,術前化学療法前に腋窩リンパ節転移があった患者さんでは,たとえ術前化学療法後の画像診断で腋窩リンパ節転移が消失したと考えられても,通常のセンチネルリンパ節生検の信頼性は不十分である可能性があり,現時点では腋窩リンパ節郭清省略が標準的な方法とはいえません。センチネルリンパ節生検の信頼性を向上させるために,もともと転移と診断されたリンパ節に目印をつけてそれを確実に摘出する,通常のセンチネルリンパ節生検よりも多めにリンパ節を摘出するといった工夫が必要とされています。

非浸潤がんの場合

がん細胞が乳管・小葉の中にとどまっている非(ひ)浸潤(しんじゅん)がんの場合には,理論的にはリンパ節転移は起こらないため,腋窩リンパ節郭清はもちろんのこと,センチネルリンパ節生検すら行う必要はないと考えられます。ただし,非浸潤がんかどうかを手術前に正確に診断することは困難です。手術前の針生検で非浸潤がんと診断されても,しこりが触れる場合や範囲が広い場合などには,そこに小さな浸潤(乳管の外にがんが出ている部分)が含まれている可能性があります。
したがって,浸潤がんの可能性がある場合には,センチネルリンパ節生検を行ったほうがよいと考えられます。一方,浸潤がんの可能性が少ない場合には,まず乳房部分切除術を行い,病理検査の結果,浸潤がんが認められた場合に,センチネルリンパ節生検を行うかどうかを判断することも可能です。ただし,乳房全切除術が行われる場合や,乳房部分切除術であっても,腫瘍が乳房の外上側に広範囲に存在する場合などには,後日,センチネルリンパ節生検を行うことが技術的に難しいため,乳房の手術と同時にセンチネルリンパ節生検を行うことが勧められます。

乳房再建の方法について

乳房再建は大きく分けて,自家組織による方法と人工乳房(インプラント)による方法があります。

自家組織による再建

自家組織による再建とは,患者さんのからだの一部の組織を胸に移植する方法で,主に①腹部の組織を移植する方法と,②背中の組織を移植する方法の2つがあります。
① 腹部の組織を移植する方法
腹部の組織を移植する方法には,「腹直筋皮弁法」という,腹部の皮膚,脂肪,筋肉に血管を付けたまま胸に移植して乳房をつくる方法 (図2) と,「穿通枝皮弁法」といって腹部の脂肪とそこに栄養を送る血管だけを移植して乳房をつくる方法があります。腹直筋皮弁法では,腹部の組織を切り取る際に筋肉を一部取るので,腹筋が弱くなり,腹壁瘢痕ヘルニアを起こすことがまれにあります。腹部の手術を受けたことのある方や,将来の妊娠・出産を希望されている方にはこの方法は適していません。腹直筋皮弁法の手技は比較的簡単なため,専門医がいれば,どこの病院の形成外科でも実施可能です。これに対し穿通枝皮弁法は,脂肪に栄養を送る血管を探して,これを付着させて脂肪を切り取り,移植し,顕微鏡でみながら胸やわきの下の血管と縫い合わせるため,非常に高度な技術を要します。腹直筋は犠牲にならないので,腹筋が弱くなることはありませんが,血管が詰まると脂肪全体が壊死してしまうため,高度な技術を伴う手術であり,限られた施設,形成外科医しか行えないという欠点があります。どちらの方法も下腹部に傷が残ることは同じです。

図2 腹直筋皮弁法

② 背中の組織を移植する方法
背中の組織を移植する方法を「広背筋皮弁法」といい,背中の皮膚,脂肪,筋肉に血管を付けたまま胸に移植して乳房をつくる方法です( 図3) 。背中の組織を切り取る際に,背中に傷が残ります。背中の筋肉を切り取っても他の筋肉が補うので,日常生活に支障はほとんどありません。この方法は乳房のボリュームが比較的小さい方や腹部の手術を受けたことのある方,将来の妊娠・出産を希望されている方に適した方法です。ただし,移植した組織の中の使われなくなった筋肉が時間とともに萎縮(廃用性萎縮)し,再建した乳房が小さくなってしまうことが欠点です。

図3 広背筋皮弁法+インプラント

人工乳房(インプラント)による再建

はじめにエキスパンダーという皮膚を伸ばす袋を胸の筋肉の下に入れ,その袋の中に生理食塩水を徐々に入れて皮膚を伸ばし乳房の形にふくらませます。その後,エキスパンダーを人工乳房(インプラント)に入れ替えるという方法が一般的です (図4) 。乳房の大きさや残っている皮膚の状態によっては,エキスパンダーは挿入せずに乳房全切除術時にインプラントを入れて1回で完成させることもあります。再建手術は乳房全切除術のときの傷を切開して行いますので,新たな傷はできません。インプラントはシリコンでできているので,その後のマンモグラフィ検査(手術していない側の乳房)にも問題ありません。しかし,エキスパンダーやインプラントは人工物なので,感染を起こした場合には,いったん取り除いて感染を治療し,完治しないと再建を再開することはできません。また,まれではありますが,術後にブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)を発症することがあります。インプラント挿入後の10年を超える長期の安全性はデータが限られており,将来的に入れ替えが必要な場合があります。
もともと下垂のある乳房は,自家組織による再建を行った乳房と比べて左右の対称性が劣りますし,再建していないほうの乳房は加齢とともに下垂してくるので,左右のバランスが悪くなることがあります。その際には,再建していない側の乳房を豊胸したり,挙上したりして,バランスを合わせることが必要になります。また,エキスパンダーには一部に金属が使われているものが多く,その場合,エキスパンダー挿入中はMRI検査を受けることができません。

図4 インプラント

いずれの方法でも,乳頭や乳輪の再建は,乳房を再建して位置や形が安定するのを待って行います。それぞれの方法には特徴がありますので,どの方法で行うかは,乳房切除の術式やご自身の希望を考え併せたうえで選択します。
乳房再建法には,①再建を行う時期と,②再建術の回数(何回に分けて再建を行うか)によって名称があります。①については,乳がんの手術と同時に再建手術を行う場合を「一次再建」,乳がんの手術後に期間をおいて改めて再建する場合を「二次再建」といいます。②については「一期再建」と「二期再建」があります。エキスパンダーで皮膚を伸ばさずに自家組織またはインプラントにより1回で乳房を再建する方法を「一期再建」といい,最初の手術でエキスパンダーを挿入して皮膚を伸ばしてから,2回目の手術でインプラントに入れ替える再建法を「二期再建」といいます。これらの「一次,二次」「一期,二期」という言葉を組み合わせて再建術のやり方を表現します。
また,「同時再建」とは,乳がん手術の際に同時に自家組織やインプラントで再建すること(一次一期再建)を指します。患者さんの立場からすると,一度の手術で乳がん切除と再建が同時に行えるという点では,一次再建が望ましいと考えられます。近年,同時再建が増えてきましたが,再建まで気持ちが回らない,病院の方針として一次再建をやっていない,乳がんの再発の不安がある,乳がんの進行の程度などによっては二次再建のほうが望ましい場合があります。これらのことを考慮して,患者さん,形成外科医,担当医の3者で手術前によく話し合って,それぞれの患者さんに適した手術時期を選択することをお勧めします。

放射線療法と乳房再建

乳房全切除術を受けた人でも,腋窩リンパ節転移が多数の場合やしこりが大きい(5cm以上)場合では胸壁や首の付け根(鎖骨周囲)に放射線を照射をすることがあります。放射線療法は,皮膚やその周囲組織にダメージを与え,皮膚が弱くなったり,伸びにくくなったりします。そのため,放射線療法後の人工物による二次再建は術後の合併症の発生率が増加することが報告されていますので,選択する際は担当医と十分に相談が必要です。また,放射線療法後の自家組織による二次再建はできる場合もありますが,創部の治りや整容性がよくないことがあります。インプラントを挿入した状態(一次再建)での放射線療法についても,インプラントへの影響を考慮しつつ慎重に進めなければなりません。手術後の病状によっては放射線療法を受ける可能性があることを念頭に置きつつ,手術前に担当医とインプラント挿入後や自家組織再建後に放射線療法をするとどのような影響があるかを十分相談することをお勧めします。通常,自家組織(自分の筋肉や脂肪)よりインプラントを用いた再建乳房に照射するほうが合併症は多くなります。また,人工物による再建の場合,インプラントを入れる前に,エキスパンダーという皮膚と周囲の組織を伸ばす器具を入れることがあります。合併症や乳房再建の完遂などの面から,一般的にはインプラントに入れ替えてから照射することが望ましいとされてきましたが,入れ替え前(エキスパンダー挿入中)と後の照射を比べると,重篤な合併症の頻度や再建の見た目には差がないため,抗がん薬治療(化学療法)などのタイミングにより必要と判断されれば,エキスパンダー挿入中の照射も許容されます。

費用と保険適用

乳房全切除術後の乳房再建は,自家組織による乳房再建と,インプラントによる乳房再建のいずれも保険適用が認められています。しかし,すべての施設においてインプラントによる乳房再建が実施できるわけではありません。また,再建乳房への乳頭形成も,保険診療の対象になっていますが,それぞれの費用は手術の内容によって異なり,施設によっては自費診療として行っている場合もあります。いずれの術式の場合でも必ず手術前に形成外科医に相談し,入院日数や費用などについて十分理解しておく必要があります。

乳房再建後(特にインプラントによる再建)の日常生活上の注意点

  1. 術後しばらくはドレーンが留置されているので,感染予防のため留置部位を清潔に保ちましょう。
  2. ドレーン抜去後に血液やリンパ液などの体液が体内にたまった場合は,超音波画像で位置を確認しながら,注射器を使って体液の穿刺除去を行うことがあります。
  3. 退院後は可能な範囲で手術した側の腕のストレッチや運動を行い,二次的な肩関節拘縮(硬くなり動かしにくくなること)を予防しましょう。
  4. インプラントの劣化や破損は触診や超音波検査で診断できるので, 定期検診時に乳房と合わせてインプラントのチェックも行ってもらいましょう。
  5. 再建途中に使用する下着については,再建方法に合わせて勧められる場合があります。乳房再建の担当医にご相談ください。
  6. エキスパンダーには一部に金属が使われているものが多く,その場合,エキスパンダー挿入中はMRI検査を受けることができません。MRI検査を受ける際には,乳房再建の担当医に確認が必要です。
  7. 日常生活に関しては,エキスパンダーやインプラントが安定した状態になれば通常通りで構いません。肩こりや腰痛などに対するマッサージも問題ありませんが,再建部分へのマイクロ波温熱治療などは控えてください。飛行機に乗ることは問題ありませんが,エキスパンダーには金属や磁石が入っているため,保安検査場で金属探知機に反応する可能性があります。運動に関しては,エキスパンダー挿入中は,ランニングやエアロビクス,水泳など過剰な運動は避けましょう。開始時期に関しては創部の状態も含め医師への相談が必要です。

乳房再建後(特にインプラントによる再建)の主な合併症

日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会による2020年度乳房再建用エキスパンダー/インプラント年次報告によると,エキスパンダー挿入術後の合併症は11.8%(486/4,135件)あり,うち抜去や入れ替えを要した症例は3.6%(150件)でした。
人工乳房(インプラント)挿入術後の合併症は4.3%(152/3,506件)あり,うち抜去や入れ替えを要した症例は0.9%(33件)でした。合併症の内訳は,感染22%,術後出血・血腫42%,皮膚壊死・術後創離開18%,その他38%でした。術前に薬物療法を行った後の乳房再建についても合併症はそれほど増えないといわれていますが,注意して慎重に行う必要があります。また,特殊な合併症として,ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)があります。これはT細胞性のリンパ腫と呼ばれるもので,死亡率は低いとされていますが,乳がんとは異なる悪性腫瘍です。罹患率はインプラント挿入症例10万例あたり年間0.1~0.3%と推定されています。罹患した患者さんについての海外からの報告では,インプラントを入れてから平均9年ほどで発生し,8割の患者さんでインプラント周囲に液体がたまり大きく腫れてくるとされています。
以上のように,乳房再建では合併症も起こり得るため,メリット・デメリットをよく理解したうえで再建を受けるかどうかを決めましょう。

乳頭・乳輪再建

乳がんの手術で乳頭・乳輪を切除した場合は,乳頭・乳輪の再建を行います。手術は比較的短時間で終わり,多くの場合,日帰りで行うことができます。

乳頭の再建

  1. 切除していない側(健側)の乳頭に大きさがある場合は,健側の乳頭を一部切除して採取し,乳頭切除した側(患側)に移植します。
  2. 健側の乳頭に採取するだけの大きさがない場合や,今後に授乳を考えている場合は,患側の乳頭周囲の皮膚に切り込みを入れてはがし,立体的に縫い合わせます。

乳輪の再建

  1. 乳輪の色に近い,色の濃い皮膚を移植したり,健側の乳輪に大きさがある場合は,健側から移植したりします。
  2. 健側の乳輪に大きさがない場合は,入れ墨をしますが,何年か経つと徐々に色が薄くなるので,再着色が必要になります。

以上の方法を組み合わせて,乳頭・乳輪をつくりますが,装着タイプの人工乳頭・乳輪もありますので,担当医とよく相談して決めてください。
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